産業医とは?役割や業務内容をわかりやすく解説

2022年02月09日

労働者の安全と健康の保護は雇い主である企業に責任があり、労働基準法や労働安全衛生法などの労働関連法にもさまざまな法的義務が課されています。

企業にとって資本となる労働力と、社会的に要請が高まるコンプライアンスを同時に守るためには、自社の従業員への安全配慮義務は重要となります。

労働者の安全衛生にかかわるのは、主に人事・総務などの労務管理部門や安全・衛生責任者などが該当しますが、なかでも最も専門的な知見をもつ「産業医」に着目してみましょう。

当記事では、産業医とはどのような医師なのか?という基本的な知識から企業内での役割、担当する業務内容から設置義務の基準までを解説します。

産業医とは?労働者の健康管理を専門とする医師

産業医とは、企業との契約によって事業場へ訪問・常駐しながら、労働者の健康管理について専門的な立場から指導・助言を行う医師です。

産業医学や労働安全衛生にかかわる法規、行政制度などに精通しているため、事業主にかわって労働者が健康で快適に働けるようにさまざまな業務を担当します。

ただし、病院やクリニックなどに身を置く医師(主治医)とは異なり、診断・治療といった医療行為は産業医の役割に含まれません。

契約先企業への訪問時は産業医として、医療機関等で勤務している間は医師としての役割を持つのが特徴です。

産業医の業務内容とは?法定の職務と代表的な業務を解説

労働者の健康を守ることを本質的な目的として、産業医に求められる職務はすべて法定事項です。(労働安全衛生規則第14条第1項)

これを読み解くと、産業医の業務範囲は次に関係する事柄となっています。

  • ・健康診断やストレスチェックなどに関すること
  • ・検診結果に基づく労働者の健康保持のための措置などに関すること
  • ・労働時間の把握
  • ・心身不調者への面接指導
  • ・作業環境の維持管理
  • ・労働者の健康管理
  • ・労働者への健康・衛生教育、健康相談
  • ・労働者の健康障害の原因調査および再発防止のための措置などに関すること

産業医の業務内容は上記の職務内容を満たすため広い範囲に渡ります。そのため、代表的な内容について下記の4つを解説します。

  • ・健康診断後の就業判定
  • ・職場の巡視
  • ・長時間労働者への面接指導
  • ・安全衛生委員会への参加

法的義務のある業務が多いため、コンプライアンスの観点も持ちつつ、各業務内容について詳しくみてみましょう。

健康診断後の就業判定

就業判定とは、健康診断の実施後に異常所見があった労働者について就業制限や休業(ドクターストップ)が必要かどうか判断する行為です。

労働安全衛生法第66条の4において、企業は就業判定について産業医から意見聴取する義務が課せられています。

産業医は就業判定後に意見書の作成を行い、これを受けた企業側が就業場所の変更や労働時間の短縮などの就業上の措置を決定します。

また病気の発症を予防する観点から、異常所見とは至らずとも必要である者については産業医による保健指導の実施が努力義務となっています。(労働安全衛生法第66条の7)

企業の健康リスク低減のため、健康診断による検知と就業判定による措置、または保健指導による予防はとりわけ重要な業務です。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断実施後の措置について」

職場の巡視

職場の巡視は、産業医が企業訪問時に職場の状況を観察し、そこに潜む危険や健康問題を見つけ、解決に向けた措置を講じるまでの一連業務です。(労働安全衛生規則第15条)

巡視は原則月に1回が義務とされていますが、事業者の同意や毎月事業者から産業医への情報提供があれば2か月に1回でも認められます。

巡視の主な対象としては、以下のような例が挙げられます。

  • ・4S(整理・整頓・清掃・清潔)
  • ・温湿、冷暖房、換気などの環境
  • ・室内照明や作業環境の照度
  • ・休憩室の設置や衛生管理
  • ・AEDや消火器、非常口の場所

こうした観察対象は、事務所衛生基準規則の基準を満たしていなければなりません。

新型コロナウイルス感染症の流行以降、濃厚接触者がでない職場づくりも重要項目となりました。

産業医による職場巡視で問題が発見された場合には、衛生委員会などで報告し、改善を図る流れとなります。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「産業医制度に係る見直しについて」

長時間労働者への面接指導

長時間労働は脳・心臓疾患や精神疾患の発症と強い関連性があるため、企業は長時間労働者に対して産業医による面接指導を行わなければなりません。

具体的には以下のケースに当てはまる労働者への面接指導は義務とされています。

  • ・月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められ、面接指導を申し出た者
  • ・研究開発業務従事者の場合、月100時間を超える時間外・休日労働を行った者
  • ・高度プロフェッショナル制度適用者の場合、週間あたりの健康管理時間(事業場内外を問わず労働した時間)が40時間を超えた場合、その超えた時間について月100時間を超えて行った者

事業者としては適切な勤怠管理によって長時間労働者に該当する従業員を把握し、産業医との情報連携によって効果的な面接指導を実施するよう努めましょう。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
日本労働組合総連合会「「労働安全衛生法」が改正されました!」

衛生委員会への参加

衛生委員会(もしくは安全衛生委員会)は、従業員が50名以上の場合に設置が義務付けられており、産業医は必須の構成員となっています。

委員会での産業医の役割は、主に以下の内容に関する情報共有と対策の考案です。

  • ・長時間労働の実態
  • ・メンタルへルス問題
  • ・就業判定で問題のある労働者
  • ・感染症予防

そのほか、健康経営に役立つ情報の提供や衛生講話なども産業医の専門的知識と第三者の視点を生かした重要な役割といえます。

産業医の委員会への参加は任意とされていますが、企業にとって有意義な情報を提供してもらうため、巡視のタイミングで委員会を開催するなどの調整があると効果的です。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省|安全委員会、衛生委員会について教えてください。

産業医の設置義務について

企業が従業員の安全と健康に配慮する観点から、産業医との連携が重要なのは明らかです。

その前提のもとで、法的要件では産業医の設置義務がどう定められているかを知っておきましょう。

まず、設置すべき産業医の人数についての条件は次のようになります。

事業所の労働者数 産業医の設置人数
50〜3000名 1名以上
3000名超 2名以上

続いて、産業医の設置方式についての条件は次のようになります。

事業所の労働者数 設置すべき産業医の種類
50〜999名 嘱託産業医
1000名以上 専属産業医

嘱託産業医は、月に1回から数回のペースで事業所を訪れ、社外アドバイザー的な立場をとる産業医です。

一方で専属産業医は、週に3〜5日のペースで事業所を訪問し、社内の一員として営業時間内に常駐勤務する産業医です。

つまり、管理すべき労働者の数が増えるほど、産業医も企業と密接に環境改善や健康管理を遂行することになります。

仮に産業医の設置義務がない場合であっても、厚生労働省は努力義務として設置を推奨しているため、将来的な産業医の選任について積極的に検討しましょう。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「産業医について」

まとめ

産業医は労働者の安全と健康に関する専門家です。

企業には従業員への安全配慮義務が求められるため、医学知識や関連法規に強い産業医は頼もしいサポート役となるでしょう。

産業医によって担保された質の高い安全配慮は、従業員の健康に対する意識向上や生産性向上、近年重要視されるメンタルヘルスケアなどに寄与します。

従業員が働きやすい環境の構築ができれば、社内外からの企業イメージもクリーンなものになり、単純にコンプライアンスを守ること以上に大きなメリットが得られるのです。

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