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【人事労務担当者向け】メンタルヘルス対策の基本 心の健康づくり計画

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更新日: 2025.01.08
【人事労務担当者向け】メンタルヘルス対策の基本 心の健康づくり計画
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この記事を書いた人:ワーカーズドクターズ編集部

【監修】新井久美子(産業医) 研修終了後10年以上救急医として従事、自身のライフスタイルの変化があり産業医資格を取得。現在は嘱託産業医として複数社契約し、産業保健分野を中心に活動している。オンライン面談などを活用しつつ、メンタルヘルス対策や健康相談を重視している。

【監修】新井久美子(産業医) 研修終了後10年以上救急医として従事、自身のライフスタイルの変化があり産業医資格を取得。現在は嘱託産業医として複数社契約し、産業保健分野を中心に活動している。オンライン面談などを活用しつつ、メンタルヘルス対策や健康相談を重視している。

健康経営を進めるうえで、従業員の心の健康は、企業の成長に大きくつながる要素となっています。企業がメンタルヘルス対策を推進するときの指針となるのが、心の健康づくり計画です。この記事では厚生労働省が策定を推奨している心の健康づくり計画とはどのようなものなのか、計画の策定や実行にあたり産業医はどのように関わっていくのか、解説します。

心の健康づくり計画とは

心の健康づくり計画_01.jpg

心の健康づくり計画とは? 概要とその目的

働くうえでストレスや、強い不安を抱えている労働者の割合は年々増加しています。それに伴い、メンタルヘルス不調による労働災害の発生件数も増加傾向にあり、心の健康問題は国にとっても企業にとっても、重要な課題となっています。これらの問題を解決すべく、厚生労働省は2006年3月(2015年11月30日改正)に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針)を定め、職場におけるメンタルヘルス対策を推進してきました。また、労働災害を防止する目的で策定された「第14次労働再来防止計画」(2023年4月〜2028年3月までの5か年計画)でも8つの重点施策のうちの1つとして、メンタルヘルス対策のさらなる推進が急務とされています。

メンタルヘルスケアの原則的な実施方法について、労働者の安全と衛生について定めた法律である労働安全衛生法の第69条では、「事業者は、労働者に対する健康教育及び健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置を継続的かつ計画的に講ずるよう努めなければならない」と記されています。現在、メンタルヘルス対策の取り組みとして義務化されているのは年に1度のストレスチェック(労働者数が50人以上)で、心の健康づくり計画の策定・実施に関しては明確な罰則規定はありません。しかしながら、ストレスチェックの実施計画を含め、職場全体で心の健康づくり計画を策定・実施することは、メンタルヘルス不調を起こしにくい、つまり働きやすい職場環境づくりにつながります。具体的な心の健康づくり計画の策定は、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」でも推奨されています。

心の健康づくり計画に盛り込むべき7つの項目

心の健康づくり計画に盛り込むべき事項について、厚生労働省の「職場における心の健康づくり〜労働者の心の健康の保持増進のための指針〜」では次の7項目を掲げています。以下でそれぞれの項目について解説します。

  • 事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
  • 事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
  • 事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
  • メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
  • 労働者の健康情報の保護に関すること
  • 心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
  • その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

参考:厚生労働省「職場における心の健康づくり〜労働者の心の健康の保持増進のための指針〜」より

事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること

事業者の代表がメンタルヘルス対策に会社全体で取り組むことを表明することで、従業員も自分事として捉えることができ、計画・実施がスムーズに進みます。衛生委員会などで以下の具体的な内容を盛り込んだ計画を話し合い、議事録や掲示物などで会社全体に途中経過の取り組みを共有することも重要です。

事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること

メンタルヘルスケアについて、具体的な目標を掲げ、どのような体制づくりをしていくのか(相談窓口の設置など)を決めましょう。メンタルヘルス対策で重要な役割を担っているのが産業医などの産業保健職です。産業医が社内にいる場合には従業員に紹介し日頃から相談しやすい環境作りをすることも大切です。

事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること

事業場ごとの現状や問題点を把握することは、計画を立てるのに必要なものです。長時間労働の実態把握など、人事総務担当者を含めて問題を洗い出しましょう。

メンタルへルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること

社内に産業医や産業保健師などの産業保健職がいない場合には、地域の産業保健センター(地さんぽ)などに相談してみましょう。地さんぽとは、特に小規模事業者に対して産業保険に関する専門的なアドバイスを提供している公的機関です。

労働者の健康情報の保護に関すること

メンタルヘルスという健康情報、個人情報を扱うため、個人情報保護と労働者の意思の尊重に十分な配慮をすることが重要です。

心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること

策定した心の健康づくり計画をもとに、ストレスチェックなどの具体的な取り組みを実施したら、その結果に対する計画の評価と見直しを行いましょう。特にストレスチェックは産業医と共に集団分析を行い、事業所全体の改善点を洗い出し、次年度には改善できるように目指しましょう。

その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

労働者だけではなく管理監督者などに対して、それぞれの職務に応じた教育研修・情報提供を行います。事業場内に教育研修担当者を育てる社内外の研修システムなどの仕組みづくりも含まれます。

メンタルヘルス対策における3つの予防

心の健康づくり計画におけるメンタルヘルス対策は以下の一次予防、二次予防、三次予防を意識して行う必要があります。

一次予防:メンタルヘルス不調の発生自体を予防することを目指します。従業員一人ひとりにメンタルヘルスケアの必要性を周知し、ケアの方法について情報共有や研修などを行うことで、セルフケアができる環境やストレスが発生しにくい職場環境などを整えます。
産業医は、ストレスチェックの実施や、社内教育に関する対応が可能です。

二次予防:一次予防をしていても、メンタルヘルス不調を完全に予防することは困難です。二次予防ではメンタルヘルス不調の心配がある従業員の早期発見を目指します。職場を風通しの良い状態にしておくことで、周囲の人もメンタルヘルス不調の兆候を早期に発見することができるようになります。同僚や上司だけではなく、相談窓口や産業医面談など、複数の相談先があると安心です。

三次予防:三次予防ではメンタルヘルス不調者の復帰支援と再発予防を行います。一次、二次予防で防ぎきれずにメンタルヘルスの不調により、欠勤や休職することになった従業員に対しては、復帰プログラムを用意し、段階的に業務に戻れるようサポートします。また、必要に応じて柔軟な勤務形態や定期的な面談などを行い、再発を防ぐ環境を整えます。
産業医は復職プログラムの策定や実施において専門的なアドバイスを行うことができます。

これらの予防策を総合的に実施することで、メンタルヘルスを守る職場づくりが実現します。

▼参考資料はコチラ
総務省:メンタルヘルス対策に関する計画(例)〜職場における心の健康づくり〜,2023

心の健康づくり計画を基にしたメンタルヘルスケアの推進

心の健康づくり計画_02.jpg

ストレスチェック制度の実施

「労働安全衛生法の一部を改正する法律」(平成26年法律第82号)により、労働者50人以上の企業では年1回、心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施とその結果に基づく面接指導の実施等を内容としたストレスチェック制度が義務化されています(労働者50人未満の小規模事業所でも今後義務化の予定)。

この制度は、労働者のストレスの程度を把握して労働者自身がストレスへ気づくように促し、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止すること(一次予防)を主な目的としています。

ストレスチェック制度は以下のフローチャートに沿って実施すると良いでしょう。

心の健康づくり計画_図表.jpg

参考:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の現状等」より改変

ストレスチェックの実施計画自体は企業側が立てますが、実施者は労働安全衛生法の規定により医師、保健師等になります。通常は産業医が実施者となるため、どのようなストレスチェック調査票を使用するのか、評価の基準や高ストレス者の判断基準などについても企業に合わせて選定することが可能です。また、高ストレス者のなかで産業医面談の希望がある対象者に対しては、面談を実施し、実際にメンタルヘルス不調の兆候がないか、業務内容が適正かどうかなどについて専門的なアドバイスを行うことができます。

メンタルヘルスケアの要となる4つのケア

メンタルヘルス対策を推進するうえで重要なものとして4つのケアがあります。4つのケアには労働者自らが中心となるセルフケア、上司など管理監督者が行うラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアがあり、このうち、産業医や産業保健師によるケアは、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」にあたります。

産業医は心の健康づくり計画の実行にあたり、包括的なアドバイスを行うほか、実務としては、特にストレスチェック後の対象者への産業医面談、相談窓口の設置の指導や対応を行います。

これら4つのケアは、継続的かつ計画的に行われることが重要です。4つのケアが適切に実施されるよう労働者自身(セルフ)、管理監督者(ライン)、産業医等の産業保健スタッフなどが相互に連携し、計画を実行していくことが望ましいでしょう。

メンタルヘルスケアの具体的な進め方

心の健康づくり計画_03.jpg

4つのケアと一次予防、二次予防、三次予防について、それぞれの対応をまとめたものが以下の表です。

  一次予防 二次予防 三次予防
セルフケア 教育・新入社員教育
パンフレット
自発的相談
セルフチェック
主治医通院・治療
産業医面談
ラインケア 職場環境の改善
働き方改革・残業低減
傾聴訓練・声がけ
気づき
関係者との早期連携
復職プログラム
上司面談
産業医によるケア 教育・啓発
社内体制の整備
スタッフ研修
対象者の産業医面談
相談窓口の設置・対応
復職プログラム
上司面談
事業場外資源によるケア 外部講師の講演会
e-learning
相談窓口設置
相談窓口設置
精神科・カウンセラー選任
主治医通院・治療
リワーク・外部支援機関

これらのケアを効果的に進めていくためには、積極的に産業医によるアドバイスを受けることが有効です。以下でメンタルヘルスケアを具体的に進めるうえでの産業医の関わりについて解説していきます。

メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供

産業医は企業や業種ごとに生じやすいメンタルヘルスケアの特徴や背景などを考慮しケア方針を策定します。そのうえで、労働者や管理監督者らに対し、ストレスおよびメンタルヘルスケアの基礎知識や事業場内外の資源を紹介したりなど、必要に応じた情報提供を実施します。

職場環境等の把握と改善

メンタルヘルスに支障をきたす要因には作業環境や作業方法、労働時間、仕事の量と質など、さまざまなことが影響しています。産業医は職場巡視や産業医面談などを通して職場環境や働き方の実情を把握することで、環境改善のために必要なことについて専門的なアドバイスを行います。

メンタルヘルス不調への気付きと対応

産業医はストレスチェックの実施者であり、高ストレス者や長時間労働者との産業医面談等でメンタルヘルス不調を起こしやすい労働者と接する機会も多くあります。そのため労働者のメンタルヘルス不調に対して、早期発見と早期対応が可能です。

職場復帰における支援

産業医が一次予防、二次予防で包括的にメンタルヘルス対策に関わることができていれば、万が一にメンタルヘルス不調者が発生し休職することとなっても復職支援の早い段階から産業医面談やサポートを受けることができます。復職後も面談や環境整備などについてアドバイスを得ることで、再発予防にもつながります。

まとめ:心の健康づくり計画は、健康経営の要

心の健康づくり計画は、企業がメンタルヘルス対策を推進していくためには欠かせないものです。産業医のアドバイスを得ながら、衛生委員会などで調査や審議を重ねて、一緒につくり上げていきましょう。また策定後も、計画を実施するなかで、新型コロナウイルス感染症等のパンデミックや企業の経済状況などによりストレスが発生する背景は大きく変化していきます。したがって、心の健康づくり計画の評価・見直しは適宜必要となります。産業医は計画立案から実行、修正、実務のあらゆるステージで専門的なアドバイスを行うことができます。産業医とメンタルヘルス対策についての意見を交わし、健康経営の要となる心の健康づくり計画のさらなる改善をはかりましょう。

公開日: 2025.01.08
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