【ケース別】従業員が産業医面談で泣く理由
従業員が産業医面談で泣いてしまうのは、どのような理由からなのでしょうか。「メンタルヘルス不調の兆候」と「理解や共感に対する安心感」という2つの理由を解説します。
ケース①:メンタルヘルス不調の兆候
従業員が涙もろくなっているのは、メンタルヘルス不調の症状が表れている可能性があります。精神疾患の兆候として産業医と情報共有を行い、医学的な意見を聴取した上で適切な対応を取ることが大切です。
代表的な病気としては、以下のようにうつ病や不安障害、適応障害などが挙げられます。具体的な職場での様子について産業医から意見を求められたときには、管理監督者と連携を取って、職場での様子を伝えましょう。
・うつ病
うつ病は気分の落ち込みや意欲低下などの精神症状に加え、不眠や倦怠感などの身体症状がでることがある病気で、気分障害の一つです。
セロトニンの働きが低下することで感情のコントロールが難しくなり、涙もろくなる場合があります。意欲の低下や食欲・睡眠の異常などが2週間以上続いている場合、うつ病の可能性があります。
・不安障害
過度な不安や緊張から社会生活に支障をきたす精神疾患です。特定の環境で激しい動悸(どうき)を伴う発作が特徴のパニック障害や、人前に出て注目される状況を過度に恐れる社交不安障害が代表的です。
不安障害の症状が強い場合、産業医面談でも緊張して泣いてしまったり、面談中に感情が乱れたりするケースがあります。職場の様子からも、日常的な不安の訴えや動悸、発汗などの身体症状が増加している場合、不安障害の可能性があります。
・適応障害
対処できる範囲を超えた特定のストレスを受け、心身の不調をきたした状態です。抑うつ気分やイライラなどの精神症状、頭痛や胃痛などの身体症状を引き起こします。うつ病と似た症状もみられますが、ストレス要因が明確であることが特徴です。
適応障害も、ストレスによる脳機能の低下や心身の疲労の蓄積から、感情コントロールが難しくなり、涙もろくなる可能性があります。
ケース②:理解や共感に対する安心感
必ずしも泣くことがメンタルヘルス不調の兆候というわけではありません。現在のストレスフルな状況に対して、産業医からねぎらいや共感を示してもらったことへの安心感から泣く従業員も多いでしょう。
・現在の状況を受容してもらえた安心感
自分のつらい状況がわかってもらえたという安心感から涙を流すこともあります。産業医という専門家の立場から、ストレスフルな状況に共感され、ねぎらいの言葉をかけてもらえることで心の負担の軽減につながります。
・秘密が守られる環境で話せる安心感
職場や家庭では吐き出せずに抱えている悩みを、産業医に話すことができたという安心感から涙を流す場合があります。
産業医には守秘義務があるため、産業医面談の内容が従業員からの同意なしに企業側へ伝わることはありません。自傷や他害の恐れがある場合以外は秘密が守られるため、普段抱えている悩みも話しやすいでしょう。
産業医面談で泣くことのメリット
従業員が産業医面談で泣くのは、メンタルヘルス不調の兆候の場合もありますが、一方で安心感を得られた証拠でもあります。泣くのは悪いことではなく、安心感をもって仕事に取り組んでいけるでしょう。
産業医面談で従業員が泣くことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。泣くことで得られる一般的なメリットや効果について解説します。
泣くことの一般的な効果
泣くことには、ストレス緩和や安心感、睡眠の質の向上効果があるとされています。
1.ストレス緩和
感情が動いて流した涙は、ポジティブな心理的効果をもたらすとされています。涙の心理的効果を検討した研究では、感動的な動画を見て泣くと、ストレス緩和や疲労感の回復につながることがわかっています。
感動して涙を流すのは、共感に関与する脳の領域が活性化して生じており、心理療法中に号泣した場合も同じ領域が働いていました。映画を見るだけでなく、1対1のやりとりの中で涙を流す場合も、効果があるといえるでしょう。
産業医面談も、1対1の守られた関係の中で安心して話せる場です。抱えていた悩みを受け止めてもらえた経験を通して感動の涙を流すと、ストレス緩和や疲労回復につながるでしょう。
参考:ストレス科学研究「情動性の涙のストレス緩和作用に関する研究」(PDF)
参考:日本薬理学雑誌「涙とストレス緩和」(PDF)
2.安心感の向上
涙を流すことの効果の一つに、「カタルシス効果」があります。カタルシス効果とは、我慢していた感情を表出し、表出できた安心感を得ることです。
ある研究では、自分以外にもう1人だけ同席者がいる空間で泣くとカタルシス効果が最も高いとされています。
多くの人前で泣くと、恥ずかしさを感じやすい傾向があるからです。1対1の関係で話せる産業医面談は、カタルシス効果を得やすい環境といえるでしょう。
参考:Journal of Social and Clinical Psychology「When is Crying Cathartic? An International Study」
3.睡眠の質の向上
涙を流すことで、睡眠の質の向上が期待されます。研究では、就寝前に涙を流すと、ストレスや覚醒に関するコルチゾール値が睡眠に適した状態に調整されることがわかっています。
具体的には、睡眠中はコルチゾール値が上昇しすぎず眠りを促し、起床時に上昇しやすくなるでしょう。眠りが深く、目覚めから活発に動けるので、主観的な睡眠の質が向上する効果があります。
参考:日本心理学会大会論文集「涙を流すことによる主観的睡眠の質と起床時コルチゾール値と の関連性について」
泣くことの効果を得るには「守られた環境」が必要
泣くことにはさまざまな心理的効果が示されていますが、効果を得るには「どのような状況で泣くか」が重要です。
泣くことには、恥の感覚を伴います。とくに、泣いたあとに否定的な評価を受けると、意欲、自信の低下や疲労感などのネガティブな変化が生じます。他者からのねぎらいやサポートから安心感が得られて意欲が高まるため、安心して泣ける環境が不可欠です。
産業医面談は秘密が守られる環境であるため、安心して話がしやすいでしょう。涙を流しながら話しても受け止めてもらえた体験は従業員にとって「産業医面談では悩みを話せる」という強い安心感を育みます。
安心して涙を流せる環境設定を行うことが、従業員のメンタルヘルス不調の防止や意欲向上につながるでしょう。
参考:心理学研究「成人期における 泣くことによる心理的変化」(PDF)
産業医面談で泣く従業員への対応方法
産業医面談で泣く従業員に対しては、安心して泣けるほどの率直な感情表現ができる相談環境を設定しましょう。具体的な方法を3つ紹介します。
1.プライバシーに配慮した面談環境を設定する
従業員が泣いても問題ないよう、現場から離れた部屋や音が漏れにくい部屋など、プライバシーに配慮した環境を選ぶことが大切です。面談の時間帯も配慮し、他の従業員の目に触れにくい時間で面談を実施することも安心感につながります。
面談室の位置や実施時間などを工夫し、従業員が安心して自分の気持ちを表現できる空間をつくりましょう。
2.人事担当者として冷静に対応する
従業員が泣いてしまったことを産業医から共有された場合、慣れていないと動揺してしまうかもしれません。泣くことのメリットやメンタルヘルス不調との関係を正しく理解し、従業員には冷静に対応しましょう。
感情的にならず、専門的な視点から状況を把握し、適切な支援策を検討することが大切です。必要に応じて、産業医や外部の専門家とも連携し、どのような支援を行うかを冷静に考えましょう。
3.経験豊富な産業医を選任する
経験豊富な産業医に面談を任せることで、従業員は安心して話せるでしょう。産業医面談は厳密にはカウンセリングではありませんが、基本的な傾聴や共感スキルを理解している産業医を選任する必要があります。
男性および女性特有の悩みや家庭問題、キャリアの悩みなど、職場ストレス以外も心身の不調には関連します。多様な相談経験がある産業医であれば、従業員も安心して相談できるでしょう。
産業医の選任時には、資格や経験年数だけでなく、コミュニケーション能力や共感力なども考慮に入れることが重要です。
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何でも話せる産業医面談を目指しましょう
産業医面談で泣く従業員への対応は、背景にある理由を理解し、適切な環境を整えることが重要です。泣くことのメリットを理解し、従業員が安心して話せる環境を提供することで、産業医面談の効果を高められるでしょう。
従業員の心身の健康保持や生産性の向上につなげるためにも、「何でも話せる産業医面談」を目指すことが大切です。相談対応ができる産業医の選任や、面談環境の整備など、取り組める施策を実行していきましょう。
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