2021年3月、妊娠中の健康に関する指針である「妊婦の体重増加指導の目安」および「妊産婦のための食生活指針」が改定されました。
企業の立場でもサポートの余地がある改定内容のため、従業員への健康支援をするうえでも改定の概要と背景を知っておきましょう。
当記事では、それぞれの改定の概要や背景、企業が取り組める女性への健康支援について解説します。
2021年3月、妊娠中の健康に関する指針である「妊婦の体重増加指導の目安」および「妊産婦のための食生活指針」が改定されました。
企業の立場でもサポートの余地がある改定内容のため、従業員への健康支援をするうえでも改定の概要と背景を知っておきましょう。
当記事では、それぞれの改定の概要や背景、企業が取り組める女性への健康支援について解説します。
日本産科婦人科学会が2021年3月、新たに改定された「妊婦の体重増加指導の目安」を公表しました。
この目安は「妊娠中にこれだけ体重が増加するのが望ましい」という基準です。
妊娠中の適切な体重増加は、健康な赤ちゃんの出産のために必要とされています。
たとえば体重増加が少ないと、早産になりやすかったり、小さな赤ちゃん(低出生体重児)が生まれやすかったりするようです。
また、肥満の方の体重増加が多い場合は帝王切開の傾向が強くなります。
妊娠前のBMIによって推奨される体重増加は異なるため、体格別に基準値が決められており、妊婦の健康を指導する機関が基準値として採用しています。
今回の改定で変わった基準値は、「やせ型もしくは標準体形の妊婦の数値」です。
新しい目安では増やすべき体重の目安が2〜3㎏ずつ引き上げられています。
該当する体形の妊婦は、これまでより体重を増やしても問題ないという方向に修正されました。
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妊娠中の体重増加指導の目安について(日本産科婦人科学会)「妊婦の体重増加指導の目安」は、かつて厚生労働省も「健やか親子21」という母子保健計画の中で独自の基準を提示していました。
つまり、妊婦の体重増加の指標は日本では二重に存在し、それぞれに微妙な違いがあったため、妊婦指導の現場では混乱が生じていたのです。
しかし、同省が2021年3月に公表した「妊娠前からはじめる妊婦の食生活指針」の中で、日本産科婦人科学会が定めた「妊婦の体重増加指導の目安」の数値を推奨しました。
今回、厚生労働省と日本産科婦人科学会が同じ数値を採用したことで、基準がシンプルに統一されたと言えるでしょう。
では、これまでバラバラだった「妊婦の体重増加指導の目安」は、なぜ今回改定され、同時に基準として統一されたのでしょうか。
まず背景に、日本は低出生体重児(産まれたときの体重が2,500g未満)の赤ちゃんの割合が、世界的に見ても突出して多いと言われています。
その割合は、1年に生まれる新生児のうち、およそ10人に1人です。
海外の研究では、出生体重が低いと生活習慣病発症のリスクが高くなるとされており、現状の低出生体重児の割合は国内で問題視されています。
そして、低出生体重児が産まれやすい要因の一つとして、「妊娠中の体重制限の厳格さ」が以前から指摘されていました。
もともと妊婦の体重制限は、母子の健康に危険な影響を与える早産や緊急帝王切開、妊娠高血圧症候群などのリスクを減らすために必要です。
しかし、近年の研究により、BMI30以上の肥満の女性以外は、強い体重制限をしなくても上記のようなリスクがそれほど増えないことが明らかになりました。
つまり、科学的・客観的に「厳格な体重増加の必要性はない」という結論に至り、妊婦の体重増加指導の目安が一部緩和されたのです。
「妊産婦のための食生活指針」は、2006年に厚生労働省が策定した、妊娠期や授乳期の望ましい食生活や妊娠中の望ましい体重増加量などを示したガイドラインです。
この指針は、健康や栄養・食生活に関する課題を含む、妊産婦を取り巻く社会状況の変化を受け、2021年3月に改定されました。
大きな改定は以下の3点です。
まず、指針の名称は「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」に変更されています。
指針の対象は妊娠前の女性も含むようになり、妊娠前からの望ましい食習慣の形成や健康なからだづくりが大切だという前提が加えられました。
また、従来からある9つの指針の表現が一部変更となり、さらに10個目として「運動」に関する項目が追加されています。
妊娠中の身体活動・運動については、適度な量であれば「無理なく」行うべきという指針が明記されました。
国内の研究によれば、適度な運動によって早産や低出生体重児のリスクを高めることなく、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の予防効果が期待できるそうです。
「妊娠期における望ましい体重増加量の目安」については、前述の通り日本産科婦人科学会が定めた「妊婦の体重増加指導の目安」の数値を推奨する形となりました。
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妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針ここまでに挙げた2つの指針改定が示すように、妊娠中に関わらず日ごろからの健康管理が大切です。
もちろん、個々人の自己管理も必要となりますが、企業の立場で取り組める女性への健康支援について考えてみましょう。
厚生労働省が2020年度に実施した調査研究では、企業の女性に対する健康支援に関する取り組みの内容や割合が明らかになっています。
詳細を見ると、調査対象となった企業の過半数は「婦人科検診受診の促進」「法定より充実した育児休業制度」などを実施していますが、「栄養・食生活に関する情報提供」の割合は1割未満です。
妊婦の体重増加指導・食生活指針の改定は上記の調査以降に行われているため、これからは企業の健康支援として「栄養や食生活に関する情報提供」に取り組む必要があるでしょう。
すでに企業の取り組み事例があるため、参考として一部ご紹介します。
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今知っておきたい!女性版骨太の方針で掲げられた「フェムテックの推進」とは? 産婦人科医が語る~女性が我慢せず働ける社会のために企業ができること「妊婦の体重増加指導の目安」および「妊産婦のための食生活指針」の改定は、まずは認知として広まらなければなりません。
医療機関などの現場レベルでは改定を受けて適切な指導が行われますが、妊娠前の体づくりができるか否かは個々のヘルスリテラシーに依存するでしょう。
そのため、企業が食生活に関する情報提供などを実施し、従業員の健康支援の一助となるのも大切です。
過度なダイエットは禁物であると従業員に改定の背景を知らせ、妊婦に大切な日常的な健康管理の支援に取り組みましょう。