産業医による職場巡視の目的やチェック項目とは?

2022年02月14日

産業医学について専門的な知見をもつ産業医は、労働者が健康で快適に働けるようにさまざまな業務を担当します。

今回はその業務内容の1つである「職場巡視」について着目してみましょう。

当記事では、産業医による職場巡視の目的やチェック項目、巡視を実施する頻度について解説します。

産業医の職場巡視とは?目的もあわせて解説

産業医の職場巡視の目的

産業医による職場巡視は、契約先となる企業のオフィスや現場を定期的に観察し、従業員の安全と健康、働きやすさに配慮した環境が整備されているかチェックする業務です。

職場巡視によって危険や健康問題が発見された場合は、産業医が原因と改善策を衛生委員会に報告し、職場環境を是正していく流れとなります。

これら一連の活動における目的として次の2点が挙げられます。

労働者の危険や健康被害を未然に防ぐ

まず、労働者を脅かす危険や健康被害の原因の多くは、職場に潜んでいます。

これを事前に特定し適切に対処することで、労働者を未然に保護できるのです。

産業医は現場の情報を五感で観察し、安全衛生の専門家かつ第三者的視点で評価を行うため、内部の人間では気づかない問題もカバーできる点が期待されます。

コンプライアンスを守る

職場巡視が法令で義務化されているため、実施しなければコンプライアンス違反となります(労働安全衛生規則第15条)。

労働者の安全衛生に関連する法規は、本質的には労働者を守るために存在します。

一方で、それを遵守するクリーンな企業であるイメージも同様に重要となるため、法的要件の正確な把握も欠かせないのです。

産業医の職場巡視におけるチェック対象

産業医の職場巡視におけるチェック対象

産業医が職場巡視を実施する際、現場のどういった情報がチェック対象となるでしょうか。

とくに重要とされるポイントについて1つずつ解説します。

作業環境

事業所(オフィスや現場)の作業環境は、労働者の安全と健康を害さず、快適に作業できる衛生基準を満たしていなければなりません。

具体的には、事業所内の空気環境(CO2濃度や温度、浮遊粉じん量など)や採光・照明などに関する数値が決められた水準を保っている必要があります。

詳しい内容は事業所衛生基準規則の第二章に定められており、たとえば次のような水準があります。

  • ・室温:17~28度
  • ・湿度:40~70%
  • ・作業に必要な照度
  •  ⇒精密作業:300ルクス
  •  ⇒通常作業:150ルクス
  •  ⇒粗な作業:70ルクス

これらは人が働くうえで必要最低限確保すべき法定の環境水準のため、巡視の有無にかかわらず守るようにしましょう。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「快適職場[安全衛生キーワード]」

厚生労働省「事務所における労働衛生対策」

休息施設

作業を実施する場所だけでなく、労働者を休ませるための休息施設も快適な環境には不可欠です。

事業所で行われる作業の性質や人数の規模などに応じて、必要な設備が備わっているかは巡視におけるチェック対象となります。

たとえば、夜間作業が発生する事業所には、男女別に睡眠仮眠が可能な設備が必要です。

また、常時50人以上または常時女性30人以上の労働者がいる場合、横になって休める設備を設置しなければなりません。(事業所衛生基準規則の第四章)

4S

4Sとは、「整理・整頓・清掃・清潔」の頭文字を連ねた略称であり、快適な職場環境に欠かせないとされます。

つまり、事業所に関連する設備や置かれている物などが常に清潔な状態であり、必要な分だけ決められた場所に存在するのが理想です。

産業医の職場巡視では、基本的な清潔に関する法定事項(給排水・清掃実施状況・設備衛生などが適切か)だけでなく、働きやすさの一環として4Sが実施されているかどうかをチェックします。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「4S(整理、整頓、清掃、清潔)[安全衛生キーワード]」

VDT作業

VDT(Visual Display Terminals)とは、液晶やキーボードやマウスといった情報端末の総称です。

現代においてはほとんど必須となるパソコンを中心としたVDT作業は、職場巡視にて注目すべきポイントとなります。

理由として、不適切なVDT作業は人間にとって次のような健康被害を引き起こす原因となるためです。

  • ・視覚機能への影響(眼精疲労、ドライアイ)
  • ・筋骨格機能への影響(首や肩のこり、腱鞘炎)
  • ・精神への影響(疲労感、いらいら)

職業巡視では、VDT作業を行う時の適切な姿勢、周辺環境、連続作業時間といった観点から問題点がないかをチェックします。

▼参考資料はコチラ
労働者健康安全機構「VDT作業とその対策」

救急用具

平時の衛生環境だけでなく、緊急事態の際に労働者を危険から保護・救出するための環境があるかどうかもチェック対象となります。

具体的には、以下のような事業所に救急用具や緊急事態への備えの有無をチェックします。

  • ・AED
  • ・消火器
  • ・避難経路や非常口

さらに、こうした設備の場所や使用方法を講習などで周知できているか確認するのも重要です。避難経路や非常口については、導線に障害物が置かれていないかも確認対象となります。

産業医による職場巡視の頻度は?

産業医による職場巡視の頻度

産業医による職場巡視は、原則月に1回以上行わなければならない決まりです。

職場巡視の本質は、企業が適切に職場環境を整備できているかをチェックしたり、産業医が従業員とのコミュニケーションをとる場として機能するため、定期的な実施に意義があります。

ただし、2017年に労働安全衛生規則が改正され、職場巡視は特定の条件を満たした場合のみ「2か月に1回でも可」とされました。

特定の条件は次の2点です。

事業者と産業医が合意している

職場巡視の頻度は、事業者と産業医いずれかの一存では決められず、必ず両者の合意が必要となります。

合意を締結するには、産業医の意見を衛生委員会などの協議の場で調査審議したうえで決定しなければなりません。

産業医が事業者から毎月1回以上所定の情報の提供を受けている

ここでの「所定の情報」は、次の3点です。

  • ・衛生管理者が最低で毎週1回行う職場巡視の結果
  • ・衛生委員会の調査審議のなかで事業者が産業医に提供すると決めた情報
  • ・長時間労働者の情報

つまり、産業医が直接現場を視察できずとも、事業所の衛生環境に関する情報が提供できていれば、頻度を少なくできるのです。

上記の法改正は、単に頻度を少なくしてよいとするのではなく、より急務であるメンタルヘルス対策や長時間労働者へのケアに時間を割く目的で行われました。

そのため、事業者と産業医の業務負担のバランスを考慮したうえで、職場巡視の頻度について検討しましょう。

▼参考資料はコチラ
厚生労働省「産業医制度に係る見直しについて」

まとめ

多くの労働者が1日の約3分の1以上を過ごす職場は、企業にとっての成果が生み出されるだけなく、労働者にとっての危険や健康被害の原因となる場所でもあります。

産業保健と医療の専門家である産業医の視点から、職場をあらゆる観点で巡視する業務には大きな意味があるのです。

もちろん、職場の衛生環境について管理・是正する直接的な責任は事業者側にあります。

事業者と産業医が協力体制を築き、労働者の働きやすさとコンプライアンスを適切に守っていきましょう。

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