産業医契約書とは?ひな形や業務内容、手続きや締結の注意点を解説
- 産業保健
- この記事のポイント
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- ●従業員50名以上の企業は、産業医との契約が法律で義務付けられています。
- ● 契約書作成の際は、日本医師会のひな形を基に7つの必須項目を明記することで、法務リスクを回避できます。
- ●本記事では、選任手続きから労働基準監督署への届出までの全手順と注意点を具体的に解説します。
「産業医との契約書とは言っても、何から手をつければよいのだろうか」
「法的に問題のない契約書を作成できるだろうか」
従業員数が50名に近づき、産業医の選任を検討している人事担当や経営者の方にとって、産業医とどのように契約書を締結すればよいか悩むことも多いのではないでしょうか。
産業医との契約は、単に法律で定められた義務を果たすためだけのものではありません。契約書の内容をいかに具体的に、そして自社の実情に合わせて作成するかが、将来の労務リスクを回避し、従業員が健康に働ける職場環境の構築につながります。
本記事では、産業医との契約に関するあらゆる疑問を解消します。労働安全衛生法などの法的根拠から、日本医師会が提供するひな形をもとにした契約書の具体的な作成手順、選任手続き、そして「名義貸し」などのトラブルを未然に防ぐための注意点まで、専門家の視点から網羅的に解説します。
この記事を読めば、自信を持って産業医との契約プロセスを進められますので、ぜひ参考にしてみてください。
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産業医との契約はなぜ重要?労働安全衛生法上の義務と企業の責任

産業医との契約が重要なのは、法律で定められた企業の義務であると同時に、従業員と会社双方を守るための重要な取り決めのためです。
労働者の健康管理を専門とする産業医と契約し、助言や指導を受けることで、企業は従業員に対する「安全配慮義務」の履行につながります。
以下では、労働安全衛生法が定める選任義務と、それに伴う企業の安全配慮義務の重要性を解説します。
従業員50名以上の事業場に課せられる「選任義務」
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、労働安全衛生法第13条にもとづき、産業医を選任する義務があります。
事業場の規模に応じた選任形態は以下の通りです。
- 嘱託産業医(1名以上): 事業場規模が50人以上999人以下の場合
- 専属産業医(1名以上): 事業場規模が1,000人以上、または特定の有害業務に500人以上が従事する場合
産業医の選任義務に違反した場合、同法第120条により50万円以下の罰金が科される可能性があります。そのため、経営上のリスク管理として確実な対応が求められます。
契約書が企業の「安全配慮義務」履行の証拠となる
企業は労働契約法第5条に基づき、従業員の心身の健康と安全を確保する「安全配慮義務」を負っています。
産業医との正式な契約は、安全配慮義務を果たしていることの証拠となります。
とくに、メンタルヘルス不調などの課題が発生した際、契約書にもとづいて産業医と連携し、適切な対策を講じていたという事実は、企業の法的リスクを軽減するうえで重要です。
判例を見ても、産業医の意見を軽視した結果、企業の責任が問われたケースは少なくありません。
【ひな形付】産業医の業務委託契約書|必須7項目と条項別注意点

産業医との契約書は、日本医師会のひな形を参考に、自社の実情に合わせて必須項目を決めて作成することが重要です。
信頼性の高いひな形を参考にすることで法的要件を満たし、契約後のトラブル防止につながります。
| 契約書のポイント | 概要 |
| 信頼性の高いひな形 |
日本医師会が公開する「産業医契約書(参考例)」が最も信頼できる |
| 必須7項目 | 契約書に最低限盛り込むべき7つの項目。具体性の担保が重要 |
| カスタマイズ | 自社の健康課題や産業医に期待する役割に応じて内容を調整する |
最も信頼できる日本医師会のひな形(テンプレート)
日本医師会は、産業医活動の質の向上と円滑な契約関係の構築を目的として、「産業医契約書(参考例)」をウェブサイトで公開しています。
日本医師会のひな形は、労働安全衛生法で定められた産業医の職務を網羅しており、法的な観点から安心して利用できるものです。
契約書を作成する際は、まずこの参考例を土台として活用することを推奨します。
ただし、あくまで参考例であるため、次の必須項目を踏まえ、自社の状況に応じた内容を追加・修正することが不可欠です。
【日本医師会の産業医契約書テンプレート】
産業医契約書の手引き(3~4ページ)
契約書必須項目チェックリストと記載ポイント
契約書には、少なくとも以下の7つの項目を盛り込むことが重要です。それぞれの項目で注意すべきポイントを解説します。
| 項目 | 記載内容 | 説明 |
| 選任事業場 |
・担当事業場の名称 ・所在地の記載 |
活動の対象範囲を明確にするために必要です。 |
| 職務内容 |
・職場巡視 ・衛生委員会への出席 ・産業医面談 など |
労働安全衛生規則第14条(職務)および第15条(職場巡視)に定められた職務を具体的に明記します。 |
| 権限付与 |
・従業員の健康情報へのアクセス ・事業者への勧告権 など |
産業医の活動の実効性を担保するため、職務遂行に必要な権限を記載します。 |
| 報酬 |
・月額の基本報酬 ・追加報酬の条件(時間外など) ・金額や支払条件 |
後の金銭トラブルを避けるため、最も明確に規定すべき項目です。 |
| 守秘義務 | ・職務上知り得た機微な個人情報の秘密保持 | 精神疾患の既往歴なども扱うため、情報の適正管理を徹底する上で重要です。 |
| 契約期間 |
・契約の開始日と終了日 ・自動更新の有無、更新手続き ・解約時の予告期間 |
更新や解約時の手続きを円滑にするために明記しておくと安心です。 |
| 反社条項 | ・契約当事者が反社会的勢力でないことの表明や保証 | コンプライアンスの観点から、設けることが一般的です。 |
産業医の選任から契約締結・届出まで5ステップと手続き

産業医の選任プロセスは、単に医師を探して契約するだけでは完了しません。自社の課題整理から労働基準監督署への届出まで、計画的に進めるべき一連の手続きがあります。
産業医選任から契約までの具体的な流れを5つのステップで解説します。
| ステップ1:自社の健康課題を整理する |
| 長時間労働やメンタルヘルス不調などの課題を洗い出し、どのような専門性を持つ産業医が必要かを明確にします。 |
| ステップ2:自社に合った産業医を探す |
| 医師会からの紹介や、産業医紹介サービスなどを利用して、自社のニーズに合う産業医を探します。 |
| ステップ3:候補者と面談・条件交渉を行う |
| 候補者と面談し、自社の課題を共有します。訪問頻度や報酬など、具体的な業務内容や契約条件を交渉し、合意を形成します。 |
| ステップ4:契約書を作成・締結する |
| 交渉で合意した内容を反映した業務委託契約書を作成し、双方が内容を確認した上で署名・捺印し、契約を締結します。 |
| ステップ5:労働基準監督署へ選任報告を提出する |
| 契約締結後、管轄の労働基準監督署へ「産業医選任報告」と必要書類を遅滞なく提出します。 |
ステップ1:自社の健康課題を整理する
産業医を探し始める前に、自社がどのような健康課題を抱えているかを整理することが重要です。
たとえば、長時間労働者の割合やメンタルヘルス不調による休職者の状況、業種特有の健康リスクなどを洗い出すことで、自社にどのような専門性を持つ産業医が必要かが見えてきます。
ステップ2:自社に合った産業医を探す
自社のニーズが明確になったら、実際に産業医を探します。
探し方には、地域の医師会からの紹介や、産業医紹介サービスなど、複数の方法があります。
それぞれの探し方のメリット・デメリットを比較検討することが対策の第一歩です。
産業医の探し方の詳細については、関連記事をご覧ください。
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産業医はどこにいる?5つの探し方と産業医選びのポイントを解説ステップ3:候補者と面談し、業務内容や条件を交渉する
候補となる産業医が見つかったら、面談を実施します。
ステップ1で整理した自社の課題を伝え、どのような支援を期待しているかを具体的にすり合わせましょう。
訪問頻度や報酬、重点的に取り組んでほしいメンタルケアのテーマなど、契約内容の骨子となる部分をしっかりと交渉し、合意形成を図ります。
ステップ4:交渉内容を反映した契約書を作成・締結する
面談での合意内容にもとづき、業務委託契約書を作成します。前述した必須項目を網羅し、双方の認識に齟齬がないか最終確認を行います。
可能であれば、法務担当者や顧問弁護士によるリーガルチェックを受けると、より安心です。内容に双方が合意したら、署名・捺印し、契約を締結します。
ステップ5:労働基準監督署へ「選任報告」を提出する
契約締結後、事業者は産業医を選任した事実を証明する報告書を、管轄の労働基準監督署へ提出する義務があります。
提出期限は「選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、その後遅滞なく提出」と定められています。
具体的には、「産業医選任報告」の様式に、医師免許証の写しなど必要書類を添付して提出する手続きが必要です。
産業医との契約で後悔しないための注意点【Q&A】

ここでは、産業医との契約に関して特に多く寄せられる質問や注意点について、Q&A形式で解説します。
契約後に「知らなかった」という事態を防ぐために、事前に確認しておきましょう。
Q1. 嘱託と専属、雇用と業務委託、契約形態はどう違う?
産業医との契約形態は、勤務形態と法的性質の組み合わせで決まります。
| 項目 | 嘱託産業医 | 専属産業医 |
| 勤務形態 | 非常勤(月に1〜数回訪問) | 常勤(週に3〜5日勤務) |
| 主な契約形態 | 業務委託契約 | 業務委託契約または雇用契約 |
多くの場合、嘱託産業医とは指揮命令関係の発生しない「業務委託契約」を締結します。
一方、専属産業医は企業の従業員として直接雇用する「雇用契約」を結ぶことが多いです。
嘱託産業医と専属産業医の違いや選任上の法的要件については、関連記事もご覧ください。
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Q2. 契約書に収入印紙は必要?
産業医との業務委託契約書は、印紙税法上の課税文書である「請負に関する契約書」(第2号文書)には該当しないと解釈されるのが一般的です。
そのため、原則として収入印紙を貼付する必要はありません。
Q3. リモートワーク中心の働き方にどう対応すればよい?
従業員の多くがリモートワークで働く場合でも、産業医の役割は変わりません。
契約書には、オンラインでの健康相談や面談の実施について明記しておきましょう。
また、産業医の重要な職務である「職場巡視」については、毎月もしくは条件を満たせば2か月に1回の実地での巡視が必要です。
2か月に1回に緩和するには、事業者の同意を得た上で、衛生管理者の巡視結果や長時間労働者の情報などを、産業医に対し毎月1回以上提供することが法律で定められています。
職場巡視を行う頻度や提供する情報の範囲を、契約書に明記しておきましょう。
参考:厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」
Q4. 契約した産業医が職務を果たさない「名義貸し」の場合、どうすればよいですか?
まず契約書にもとづき、職場巡視や衛生委員会への出席といった具体的な職務の履行を求めます。
改善されない場合は、契約解除を検討する必要があります。
名義貸しは労働安全衛生法に違反する状態です。発覚した場合は企業側も罰則(50万円以下の罰金)の対象となるリスクがあります。
速やかに、実務を行う別の産業医を選任し直すことが不可欠です。
Q5. 産業医を変更(解約)するときの注意点はありますか?
契約期間中であっても、契約書に定められた手続き(例:1ヶ月前の予告)に従えば解約は可能です。
しかし、産業医が不在とならないように注意しなければなりません。
産業医の選任は企業の継続的な義務であるため、不在期間が生じた時点で法令違反となります。
必ず後任の産業医を選任し、労働基準監督署への届出を済ませてから、現在の産業医との契約を終了させるという手順を徹底してください。
まとめ:産業医契約書は、未来の労務リスクを防ぐための設計図
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