働き方改革が進展しても、長時間労働による健康被害やメンタルヘルスの不調を訴える人はたくさんいます。
さまざまな労働環境から従業員の健康を守るのが産業医であり、特定の職場については産業医の専属が義務づけられています。
本記事では、専属産業医について解説します。嘱託産業医との違いや産業医の探し方、選任時の注意点も紹介しますので、選任基準を確認して人材確保に生かしてみてください。
働き方改革が進展しても、長時間労働による健康被害やメンタルヘルスの不調を訴える人はたくさんいます。
さまざまな労働環境から従業員の健康を守るのが産業医であり、特定の職場については産業医の専属が義務づけられています。
本記事では、専属産業医について解説します。嘱託産業医との違いや産業医の探し方、選任時の注意点も紹介しますので、選任基準を確認して人材確保に生かしてみてください。
産業医の選任形態は、大きく専属産業医と嘱託産業医に分類できます。それぞれの特徴や選任基準を確認しながら専属産業医の概要を解説します。
中小企業などが選任する産業医のほとんどは嘱託産業医です。近隣で勤務または開業する医師などが、月に1回または数回職場を訪れ、従業員の健康状態を確認したり作業環境をチェックしたりします。
しかし、多数の従業員がいる職場や危険な作業を伴う職場では、産業医が月に数回訪問しただけでは、職務を十分に果たせないケースもあります。
このような場合にも対応できるよう、職場に常勤で働く産業医(労働安全衛生法で定める「専属の者」)が専属産業医です。
産業医または専属産業医の選任基準は、法律によって次の通り決められています。
(産業医・専属産業医の選任基準)
常用労働者数 |
産業医の選任基準 |
50人未満 |
選任義務なし |
50人以上999人以下 |
1人以上 |
1,000人以上3,000人以下 |
1人以上(1人以上専属産業医) |
3,001人以上 |
2人以上(2人以上専属産業医) |
常用労働者数が1,000人以上の場合、専属産業医の選任が必要です。また、1,000人未満の場合でも、特定業務(有害な業務)に常時500人以上の労働者を従事させる場合は専属産業医の選任が義務づけられています。
▼出典
▼出典
常時500人以上の従事で専属産業医の選任義務が発生する特定業務(有害な業務)の内容は、次の通りです。(労働安全衛生規則第13条1項
専属産業医が、健康被害のリスクが高い業務を常勤で点検・管理します。
専属産業医と嘱託産業医の違いと共通点を確認してみましょう。
専属産業医と嘱託産業医の違いは、専属か専属でないかです。専属でない産業医を嘱託産業医と呼びます。専属とは1つの会社や団体にのみ所属しているという意味で、嘱託産業医など兼業している人は原則専属とはなりません。
その結果、勤務形態を見ると、専属産業医は常勤で嘱託産業医は非常勤(月に1回または数回程度)です。法律では常勤の定義はありませんが、週3日から5日くらい勤務するのが一般的です。
専属産業医と嘱託産業医では勤務形態が異なりますが、実際の職務内容は基本的に同じです。嘱託産業医と比較して専属産業医は多くの従業員、広い業務(有害業務など)を担当しますが、やることは次の通り同じです。(労働安全衛生規則第14条1項)
なお、専属産業医、嘱託産業医とも原則月1回(※)は作業場を巡視して、作業方法や衛生状態に問題がないかを確認しなければなりません。(労働安全衛生規則第15条)
※2017年6月法改正により、例外規定(2カ月に1回以上の巡視)が設けられました。例外となるのは、産業医に衛生管理者が行う巡視結果などの情報が提供され、事業者が産業医の巡視頻度に同意した場合です。
嘱託産業医は業務委託するのが一般的ですが、専属産業医は常勤であるため企業が直接雇用する場合もあります。専属産業医の直接雇用と業務委託について解説します。
専属産業医は常勤であるため、従業員として雇用契約を結ぶこともあります。
ただし、産業医は医師資格に加え所定の要件を満たす必要があり、ほかの従業員とは異なる労働条件(給与や待遇、勤務時間など)を準備しなければなりません。
企業と産業医の合意のもと、正社員または契約社員として雇用します。契約社員の場合、1年または数年の契約満了時に再契約したり、新しい産業医を雇用します。
産業医を雇用するのではなく、業務委託する方法もあります。産業医と業務委託契約を締結して、前述の産業医の職務内容を委託する方法です。
委託先は、産業医個人(または産業医が経営する会社)のほか、産業医紹介(派遣)会社や医療機関などがあります。
産業医になれる人材は限定されているため、伝手(つて)なく産業医を探すのは難しいでしょう。産業医の探し方を紹介します。
探し方の1つ目は、近隣の医師会や病院など、医師が在籍する団体などに紹介依頼することです。在籍する医師の中から産業医を紹介してもらえたり、産業医に関する情報を得られたりすることもあります。
東京都では、東京都医師会ではなく区や市の地区医師会が紹介活動をしています。
▼出典
2つ目は、健康診断を依頼している健診機関に紹介を依頼するという方法です。検診機関に在籍する産業医に来てもらえれば、健康診断と産業医業務を一括して依頼することもできます。
ただし、専属産業医と健康診断業務の兼務は難しいため、必要な人材を紹介してもらえない可能性もあります。
3つ目は、産業医紹介(派遣)会社に業務委託したり、産業医専門の人材紹介会社に産業医を紹介してもらう方法です。産業医として働く意思のある人材情報が豊富で、企業にあった産業医が見つけやすいでしょう。
ただし、紹介手数料がかかるためほかの探し方と比べると、費用は高くなりがちです。
ワーカーズドクターズでは、専属産業医の紹介サービスも行っております。医師求人サイトを運営する弊社のネットワークを生かし、全国規模で産業医の紹介が可能です。また、貴社のニーズに合った産業医のご紹介も可能です。ぜひご相談ください。
専属産業医を選任するときに注意すべき点を4つ紹介します。
注意点の1つ目は、産業医としての資格を持っているかどうかを事前に確認することです。産業医ができるのは、医師資格だけでなく次の要件のいずれかを満たす人です。(労働安全衛生規則第14条1項)
専属産業医(嘱託産業医も同様)の選任基準を満たした場合、14日以内に選任を完了し、遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告しなければなりません。(労働安全衛生規則第13条1項、2項)
報告書は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
▼出典
厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」
専属産業医(嘱託産業医も同様)の選任基準を満たしたにもかかわらず選任しなかった場合、50万円以下の罰金が科せられます。(労働安全衛生法第120条)
働き方改革の一環として、企業には労働者の安全や健康を守ることが強く求められている、と理解して企業としての責務を果たしましょう。
専属産業医は原則兼業できませんが、次の条件をすべて満たす場合、例外的にほかの事業場の嘱託産業医を兼務できます。
常用労働者数が50人以上の事業場には産業医の選任が義務づけられていますが、1,000人以上の場合や有害業務に常時500人以上従事させる場合、専属産業医の選任が必要です。
選任基準を正しく理解し人材を確保して、従業員の安全と健康を守ることが企業の責務です。
専属産業医が見つからない場合は、産業医紹介(派遣)会社の利用を検討してみましょう。