会社で働く従業員の健康管理において、産業医の存在は非常に重要です。産業医を置くことで職場環境も良好になり、健康障害を未然に防げるメリットもあります。
今回は、産業医の選任を検討している経営者や人事・労務担当者に向け、産業医選任の義務が生じる人数規模や法律について詳しく解説していきます。
会社で働く従業員の健康管理において、産業医の存在は非常に重要です。産業医を置くことで職場環境も良好になり、健康障害を未然に防げるメリットもあります。
今回は、産業医の選任を検討している経営者や人事・労務担当者に向け、産業医選任の義務が生じる人数規模や法律について詳しく解説していきます。
産業医の設置に関する法令は、厚生労働省の「労働安全衛生規則」で定められています。事業場の規模・事業内容によって、産業医の種別や選任義務が異なりますので、最初に以下の内容をチェックしましょう。
厚生労働省の「労働安全衛生規則」をもとに、産業医の選任ポイントをまとめると以下の通りです。
事業場規模 | 産業医選任義務 |
---|---|
1人〜49人 | なし |
50人〜999人 | 1名以上(嘱託産業医も可) |
(※1)の場合500人〜 | 1名以上(専属産業医の選任。嘱託産業医は不可) |
1000人〜2999人 | 1名以上(専属産業医の選任。嘱託産業医は不可) |
3000人〜 | 2名以上(専属産業医の選任。嘱託産業医は不可) |
事業場の労働者が50人に達すると産業医選任の義務が発生し、専属産業医は労働者1000人で1名・3000人以上で2名以上の選任が必要となります。
(※1)労働者500人以上で専属産業医の選任が義務となる業務
~引用~引用:e-Gov法令検索 昭和四十七年労働省令第三十二号 労働安全衛生規則 第十三条
- イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
- ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
- ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務
- ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
- ホ 異常気圧下における業務
- ヘ さく岩機、鋲(びよう)機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務
- ト 重量物の取扱い等重激な業務
- チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
- リ 坑内における業務
- ヌ 深夜業を含む業務
- ル 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
- ヲ 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
- ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務
- カ その他厚生労働大臣が定める業務
産業医の選任について覚えておくべき点は、どの企業でも労働者数が50人になった時点で産業医の設置が義務となる点と1000人以上で専属産業医の選任が義務になる点です。
事業場とは、同一の場所において関連する組織の下で作業を行う作業場を指します。したがって位置の離れた作業場は別の事業場と見なされます。
加えて「労働者」とは、正社員はもちろんのこと、派遣・パート・アルバイトの方々も含まれますので注意しましょう。
前項では、産業医に加えて「専属産業医」というワードが出てきました。実は、産業医は 一般的に呼ばれる「産業医(嘱託産業医)」と「専属産業医」の2種類に分けられます。
ここでは、嘱託産業医と専属産業医それぞれの特徴を解説していきます。
嘱託産業医は、常時50人から999人の労働者がいる事業場で選任が義務づけられている 産業医です。後述する専属産業医との違いは、主に会社との関わり方や働き方にあります。
嘱託(しょくたく)とは、大まかに言えば「非常勤」の形態のことです。あらかじめ業務内容や契約期間を定めておくのが特徴です。そのため正社員ではなく、非正規雇用契約・委任契約・請負契約・業務委託契約といった関わり方や働き方が当てはまります。
嘱託産業医は、産業医を本業として従事する医師もいますが、普段は病院や大学の研究室に勤務している場合が一般的です。事業場とは月に数回の関わりとなるため、専属産業医と比べると費用が抑えられます。
また、普段は臨床医として多くの患者に関わっているため多角的な視点を持っており、従業員や職場環境の様々な問題点にも気づいてもらいやすいというメリットもあります。
専属産業医とは、労働者が1000人以上いる一般企業や、一定の有害業務に常時500人以上が従事している事業場で選任が義務づけられている産業医を指します。
大きな特徴は、事業場専属の産業医として勤務する点です。週4日から5日のフルタイムで契約されていることが多く、事業場で働く従業員と共に勤務します。
そのため、問題があればいつでも相談ができ、従業員の変化に気づいてもらいやすいというメリットがあります。嘱託産業医より報酬額は上がりますが、より良い健康管理を徹底するには必要不可欠です。
なお、労働者1000人以上で専属産業医1名の選任が必須ですが、労働者3000人を超えた場合には2名以上選任する義務がありますので注意が必要です。
医師であれば誰でも産業医として選任できるわけではありません。労働安全衛生法第13条第2項で「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師」でなければならないとしています。具体的には労働安全衛生規則第14条第2項にある下記の要件のいずれかを満たしている必要があります。
~引用~引用:e-Gov法令検索 昭和四十七年労働省令第三十二号 労働安全衛生規則 第十四条第二項
- 一 法第十三条第一項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
- 二 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
- 三 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
- 四 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
- 五 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者
医師の中でもこれらの要件を満たしている医師が産業医として選任可能です。これらの要件を満たしており、自社の企業規模や業務内容についての知識がある医師を探すことが大切です。
産業医は健康の保持増進や職場環境の改善について言及することでより働きやすい職場を作る役割を果たします。産業医のおもな業務内容は下記のとおりです。
「定期的な作業場等の巡視」は義務化されている業務です。他の業務に関しては、義務ではないものの、産業医に依頼することが好ましい業務です。 産業医の業務内容について詳しくは下記をご参照ください。
▼参考資料はコチラ
厚生労働省「産業医の職務」ここまで産業医選任の義務や、種別についてご説明してきました。最後に、実際に選任する際の届出について解説します。
産業医は選任義務の条件に達した日から14日以内に選任し、遅滞なく届け出る必要があります。厚生労働省で定められた「産業医選任報告」の書類を記入し、各地域の労働基準監督署へ提出しましょう。
■ 引用:厚生労働省 産業医選任報告様式報告書類の主な記入内容は下記の通りです。
他にも細かな項目がありますので、よく確認しながら記入しましょう。
こちらの届出は、厚生労働省の「労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス」で便利に作成することもできます。
また、14日以内に選任しないと法律違反となり、罰則が課せられます。
本記事では、産業医の選任方法について詳しくご紹介しました。
中でも重要なポイントは3つです。
大切な従業員を守り、会社の環境をさらに良くしていくためにも、産業医の選任を早めに検討してみてください。
合わせて読みたい記事はこちら