更年期障害の社員への対応は?離職を防ぐ声かけや職場づくりを解説
- 産業保健
- この記事のポイント
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- ●更年期症状は男女問わず発生し、放置すると生産性の低下や「更年期離職」につながる経営リスクです。
- ●管理職の「声かけ」は診断ではなく「業務上の配慮」に徹することがハラスメント防止の鍵です。
- ●企業は「安全配慮義務」にもとづき、相談窓口の設置や柔軟な勤務制度の整備、研修によるリテラシー向上が求められます。
「最近、ベテランのAさんのミスが増えた」「急にイライラしている部下がいるが、どう声をかければいいか分からない」
40代~50代の従業員が抱えるこうした不調は、「更年期障害」が原因かもしれません。
更年期障害は、ホルモンバランスの変動により、ほてり、倦怠感、集中力の低下、情緒不安定など、心身に多様な症状を引き起こします。放置すれば生産性低下や更年期離職につながる問題です。
しかし、人事担当者や管理職の多くは「どう対応すれば良いか分からない」「ハラスメントにならないか不安」と悩んでいるのではないでしょうか。
この記事では、企業が取り組むべき更年期障害の社員対応について、法的根拠から具体的な声かけの方法、制度構築までを産業医の視点から解説します。
本記事を読むことで、人事担当者や管理職は、ハラスメントのリスクを避けつつ従業員を適切にサポートする方法を学べます。「更年期離職」を防げる職場環境づくりの参考にしてみてください。
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なぜ今、企業に「更年期障害」への対応が求められるのか

企業の更年期障害への対応が必要な理由は、生産性の低下や人材の「更年期離職」リスク、および企業の「安全配慮義務」という法的責任を回避するためです。
業務への影響や更年期離職のリスク、企業が果たすべき安全配慮義務について詳しく解説します。
業務パフォーマンスへの深刻な影響
更年期の症状は多岐にわたりますが、特に職場で見落とされがちなのが「認知機能」と「精神面」への影響です。
更年期症状が重い従業員は、集中力や記憶力の低下により、症状がない時と比較して業務パフォーマンスが低下することが指摘されています。
パーソル総合研究所が行った調査では、更年期障害の「用長期治療」という重度の症状レベルの場合には、女性だと1ヶ月辺り約11日、男性は約9日が仕事に支障がでていることがわかっています。
業務に影響する症状は、以下のとおりです。
・集中力・記憶力の低下:会議の内容が頭に入らない、うっかりミスが増える。
・情緒不安定:突然の不安感やイライラにより、周囲とのコミュニケーションが難しくなる。
・身体的症状:ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)や疲労感、不眠により、業務の継続が困難になる。
更年期症状を「やる気の問題」と誤解し放置すると、本人のパフォーマンスが低下するだけでなく、周囲の従業員の負担増やチームの雰囲気悪化にもつながります。
参考:株式会社パーソル総合研究所「更年期の仕事と健康に関する定量調査」
貴重な人材の「更年期離職」リスク
症状が重いにもかかわらず、職場の理解が得られなかったり相談する場所がなかったりすることで、「更年期離職」を選ぶケースもあります。
調査によれば、更年期症状が原因で離職した女性は9.3%、男性は7.4%でした。
更年期障害が見られる40代~50代は、企業にとって経験豊富で重要な役割を担う人材層です。この層の離職は、企業にとって大きな損失となります。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「NHK実施「更年期と仕事に関する調査2021」結果概要」
法的義務としての「安全配慮義務」
企業は、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています(労働契約法第5条)。
更年期障害も健康問題の一つです。
従業員から医師の診断書と共に業務上の配慮(例:業務軽減、時差出勤)の申し出があった場合、企業が合理的な理由なくこれを拒否したり、不利益な取り扱いをしたりすると、安全配慮義務違反やハラスメントとして法的責任を問われる可能性があります。
【従業員向け】ご自身の「なんとなく不調」に気づいたら

企業側の対応と同時に、従業員ご自身が不調に気づき、対処することも重要です。
まずはセルフケアを試し、日常生活に支障が出るようであれば我慢せず医療機関や社内の相談窓口を活用しましょう。
更年期障害の疑われる従業員向けに、日常生活でできるセルフケアや医療機関への受診目安を解説します。
日常生活でできるセルフケア
まずは、以下のように食事や運動、睡眠などの生活習慣を見直してみましょう。
・食生活:栄養バランスの良い食事を心がけ、特に女性ホルモンと似た働きをするとされる大豆イソフラボン(豆腐、納豆など)を意識的に摂る。
・適度な運動:ウォーキングやヨガなど、無理のない範囲での有酸素運動を習慣にする。
・睡眠とリラックス:規則正しい生活で睡眠の質を上げ、リラックスできる時間(入浴、音楽鑑賞など)を持つ。
医療機関(婦人科など)の受診目安
セルフケアで改善せず、症状によって仕事や家事などの日常生活に支障が出ている状態なら、専門医への相談を検討しましょう。
日本産婦人科学会では、症状があっても日常生活に支障がない状態を「更年期症状」、支障がでている状態を「更年期障害」と呼び、後者にはホルモン補充療法(HRT)や漢方薬などの治療を推奨しています。
また、症状の裏に別の病気が隠れている可能性もあるため、自己判断せずに受信することが大切です。
会社への相談方法
業務に支障が生じている場合は、我慢せずに会社の制度や窓口を活用してください。
社内に産業医や保健師がいる場合、または会社が契約している外部相談窓口(EAP)がある場合は、そちらに相談するのが第一歩です。産業医や保健師には守秘義務があるため、相談内容が許可なく漏れることはありません。
また、信頼できる上司に直接相談することも可能です。特に医師の診断書がある場合は、業務上の配慮を具体的に伝えやすくなります。
【管理職向け】ハラスメントにならないための「正しい声かけ」

管理職が部下の不調に気づいた際、「更年期ですか?」と直接聞くことはハラスメントにあたるかもしれません。
本人の意に反して健康状態や病歴といった機微な個人情報を詮索する行為は、「個の侵害(プライバシーの侵害)」にあたる可能性が高いです。あくまで「業務上の配慮」として、本人が安心して働ける環境を整えるような声かけが大切です。
管理職がやってはいけない声かけNG例と専門家につなげる3ステップを紹介します。
やってはいけないNG対応例
以下のような声かけやコミュニケーションは、更年期障害の社員を傷つける可能性があるため、控えましょう。
・決めつけ・噂話:「最近イライラしてるけど、更年期じゃない?」と本人や周囲に言う。
・過度な配慮・排除:「大変そうだから」と本人の意向を確認せず、重要なプロジェクトから外す。
・精神論での否定:「気の持ちようだ」「みんな我慢している」と個人の問題として片付ける。
産業医推奨!安心感を与える「3ステップ声かけ法」
部下の不調に気づいたら、以下のステップで「業務上のサポート」を申し出ましょう。
・ステップ1:事実ベースで観察を伝える(決めつけない)
・ステップ2:サポートの意思を伝え、選択肢を提示する
・ステップ3:専門家への「橋渡し」をする(抱え込まない)
ステップ1:事実ベースで観察を伝える(決めつけない)
OK例:「最近、会議中の集中が難しそうだね(事実)。何か業務で困っていることや、体調面で心配なことはない?」
NG例:「最近イライラしているね、更年期じゃない?」
ステップ2:サポートの意思を伝え、選択肢を提示する
相手が話し始めたら、遮らずに傾聴し、具体的なサポート策を提示します。
OK例:「会社としてサポートしたい。例えば、一時的に業務量を調整する、フレックスや在宅勤務を活用することも可能だけど、どうかな?」
業務上の配慮は複数の選択肢を示し、従業員に選んでもらうことが大切です。
ステップ3:専門家への「橋渡し」をする(抱え込まない)
管理職が全てを解決する必要はありません。適切な相談先へ誘導します。
OK例:「もし私に話しにくければ、会社の相談窓口や産業医の先生に相談する方法もあるよ。プライバシーは守られるから安心して」
産業医には守秘義務があることを明確に説明し、安心して話せるように伝えましょう。
【人事・経営者向け】更年期離職を防ぐ「3つの職場づくり」

更年期離職を防ぐためには、管理職の対応だけではなく、企業全体で取り組む「仕組み」が必要です。
具体的には、柔軟な「制度」、正しい知識を共有する「リテラシー」、専門家と連携した「相談体制」の3つが柱となります。
以下では、企業全体で取り組むべき3つの柱をご紹介します。
| 柱 | 目的 | 具体的な施策例 |
| 1.制度の構築 (ハード面) |
症状に合わせた柔軟な働き方の実現 |
フレックス、テレワーク、 |
|
2.リテラシーの向上 |
職場全体の「無理解」の解消 |
全従業員・管理職向けの 研修実施(男性更年期含む) |
|
3.相談体制の確立 |
安心して相談できる環境の整備 |
産業医や保健師による守秘義務の徹底された相談窓口 |
1.制度の構築(ハード面)
従業員が更年期障害の症状に合わせて柔軟に働ける制度が不可欠です。更年期障害の両立視点で活用される主な制度は以下のとおりです。
・柔軟な勤務形態:フレックスタイム制度、テレワーク(在宅勤務)の導入、時短勤務など。
・休暇制度の整備:法定の年次有給休暇とは別に、「メノボーズ休暇(更年期休暇)」や、時間単位で取得できる「シックリーブ(病気休暇)」を導入する企業も増えています。
・職場環境の改善:休憩室の整備や、個人で温度調節しやすい服装規定の見直しなども有効です。
2.リテラシーの向上(ソフト面)
職場全体の「無理解」をなくすことが重要です。
更年期障害の理解は管理職だけでなく、同僚同士の配慮においても欠かせません。「あの人、イライラしてる」といった噂話をしたり、憶測で決めつけたりすることは、本人を追い詰めるだけでなく、職場環境の悪化につながります。
更年期障害に対するリテラシー向上のためには、以下のように全従業員や管理職に向けた研修を行いましょう。
全従業員向けの研修
更年期は女性だけの問題ではありません。
男性にも関連する健康問題(LOH症候群など)があることを含め、全従業員を対象に正しい知識を学ぶ研修を実施します。
管理職研修
特に管理職には、法的リスク(ハラスメント)や、部下への適切な対応方法について、具体的な教育が必要です。
3.相談体制の確立(専門家との連携)
デリケートな問題だからこそ、安心して話せる窓口が不可欠です。産業医や保健師を最大限に活用し、以下の仕組みを整備します。
・相談しやすいフローの構築
・厳正な守秘義務と情報共有ルールの明確化
・制度構築への医学的助言
相談しやすいフローの構築
従業員が「上司や人事に知られずに相談したい」と感じるのは当然です。
人事部門を通さず、産業医や保健師に直接オンラインなどで予約できるシステムを導入・周知することが、相談のハードルを下げる鍵となります。
厳正な守秘義務と情報共有ルールの明確化
健康情報は極めてセンシティブな個人情報です。
従業員に安心して相談してもらうため、産業医・保健師には守秘義務があり、相談内容が本人の同意なく上司や人事に共有されることはない、というルールを明確に周知しましょう。
産業医が企業(人事・上司)に情報を伝えるのは、あくまで「業務所必要な配慮」に関する医学的意見のみです。
例えば、「更年期障害」という診断名ではなく、「週に数回の在宅勤務を推奨する」「こまめな休憩が必要である」といった形で、本人の健康を守るために必要な措置だけが伝えられます。
制度構築への医学的助言
「更年期休暇」や「シックリーブ(有給病気休暇)」を導入する際、「どのような症状を対象とするか」「診断書の要不要」など、実務的なルール設計が求められます。
制度設計の段階から産業医の医学的助言を得ることで、従業員の実態に即した実用的な制度を構築できます。
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中小企業や男性従業員への対応はどうする?

更年期対応は、リソースが限られる中小企業や、見落とされがちな男性従業員にとっても重要な課題です。
中小企業は外部リソースの活用が鍵となり、男性更年期については「男女共通の課題」として全社で認識を共有することが求められます。
人手が足りない中小企業の場合
大企業のような手厚い制度導入が難しくても、できることはあります。例えば、産業医や保健師と連携し、「更年期の相談もできる」ことを明確に周知するだけでも効果があります。
産業医が常駐していない場合でも、産業保健サービスを活用し、オンラインでの健康相談や研修をスポットで依頼することが有効です。
見落とされがちな「男性の健康課題(LOH症候群)」
更年期は女性特有の課題として語られがちですが、男性も加齢による男性ホルモン(テストステロン)の低下により、心身に不調が現れることがあります。
これは「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)」と呼ばれます。
主な症状
主に、以下のような精神面と身体面の症状がみられます。
・精神症状:意欲や集中力の低下、抑うつ気分、不安、不眠
・身体症状:倦怠感、筋力低下、ほてり、発汗、性機能の低下
精神面と身体面の症状により、女性同様に生産性が低下する可能性があります。
参考:日本看護科学会誌「加齢男性・性腺機能低下症(Late-onset hypogonadism: LOH)症候群に対する受診行動に影響を与える要因(J-MARS Study)」
企業としての対応
更年期症状が男性にもみられることを周知するため、男女共通の課題として研修を行うことが大切です。
企業研修などで「男女問わずホルモン変動による健康課題は起こりうる」と発信することで、男性従業員も当事者意識を持ちやすくなり、職場の相互理解が進みます。
また、産業医や相談窓口が、女性特有の問題だけでなくLOH症候群の相談も受けて受け付けていることを明確に周知します。
さらに、男性のLOH症候群対策に特化したオンライン診療サポートやセミナーを導入することも大切です。
まとめ:更年期は「個人の問題」から「組織の課題」へ
更年期障害への対応は、生産性の維持や離職率の低下、そして「安全配慮義務」の観点からも、企業が取り組むべき重要な経営課題です。
しかし、多くの企業、特に中小企業では「何から手をつければいいか分からない」「専門知識を持つ人材がいない」という課題があるかもしれません。
更年期障害への対応が難しい場合は、産業医や保健師などの専門家を積極的に活用することが課題解決への一番の近道です。
ワーカーズドクターズでは、企業のニーズに合わせた産業医の紹介や常駐・訪問・オンライン対応が可能な産業保健師業務のサポート、更年期セミナーの実施、オンライン相談窓口の設置など、企業の状況に応じたきめ細やかなサポートを提供しています。
特に、更年期障害への対応経験が豊富な女性の産業医や保健師によるサポートも可能です。専門家のサポートで、従業員が安心して長く働ける職場環境を一緒に作りませんか。お気軽にお問い合わせください。
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