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労働安全衛生規則等が改正!安全措置の対象拡大で企業が取るべき対応は?

  • 産業保健
更新日: 2025.06.02
労働安全衛生規則等が改正!安全措置の対象拡大で企業が取るべき対応は?
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この記事を書いた人:ワーカーズドクターズ編集部

【監修】新井久美子(産業医) 研修終了後10年以上救急医として従事、自身のライフスタイルの変化があり産業医資格を取得。現在は嘱託産業医として複数社契約し、産業保健分野を中心に活動している。オンライン面談などを活用しつつ、メンタルヘルス対策や健康相談を重視している。

【監修】新井久美子(産業医) 研修終了後10年以上救急医として従事、自身のライフスタイルの変化があり産業医資格を取得。現在は嘱託産業医として複数社契約し、産業保健分野を中心に活動している。オンライン面談などを活用しつつ、メンタルヘルス対策や健康相談を重視している。

2025年4月1日から、労働安全衛生規則等の一部を改正する省令が施行されました。この改正により作業現場における安全措置の対象範囲が大幅に拡大されます。これにより、企業はこれまで以上に作業現場の安全管理体制を強化しなければなりません。
今回は労働安全衛生規則等の改正について、その背景や改正のポイント、企業がとるべき対応について解説します。

労働安全規則とは?

労働安全規則_01.jpeg

労働安全規則の概要

労働安全規則とは労働者の安全と健康を守るための規則で、労働環境における危険や有害な要因から労働者を保護することを目的としています。
この規則は労働基準法に基づき、労働安全衛生法に関連する省令として制定されており、「通則」「安全基準」「衛生基準」「特別規則」の4つから構成されています。それぞれが、労働者の安全・衛生を確保するための基準を定めており、企業側はこれに基づいて適切な対策を講じる必要があります。

・通則

通則では労働安全規則全体に関する基本的な規定が設けられており、規則の適用範囲や目的、一般的な義務について記載されています。企業は労働者の安全を守るために全体的な対策を講じ、規則を遵守する責任を負います。

・安全基準

安全基準とは、労働環境における物理的な危険や設備の安全性を確保するための基準です。作業場のレイアウトや機械の設置、作業方法についての具体的な規定が示されており、事故や災害を防止するために必要な手順が定められています。例えば、危険物を取り扱う場合の安全措置や、作業者の保護具の着用義務などが含まれます。

・衛生基準

衛生基準とは、労働者が健康を害することのないように作業環境を衛生的に保つための基準です。換気や温度管理、作業場の清掃など、衛生面での基本的な要件が定められています。これにより、職場内での病気や感染症の拡大を防ぐことができます。

・特別規則

特別規則とは、特定の業種や作業においてとくに注意が必要な場合に設けられた規定です。高所作業や有害物質を扱う業務など、危険度が高い作業に対してさらに厳しい安全対策や管理を求める内容が記されています。例えば、化学物質を扱う工場での取り扱い基準や、建設現場での高所作業に関する安全規定などが含まれます。

労働安全規則改正の背景

労働安全規則改正の背景には建設アスベスト訴訟の最高裁判所判決(2021年5月17日)が大きく関係しています。この訴訟は石綿(アスベスト)による健康被害を受けた元建設作業員とその遺族の方が、国や企業に対して損害賠償を求めたものです。アスベストはかつて建設業を中心に保温断熱を目的とするなどで広く使用されていた建材で、アスベストを扱った作業員は、その後長い年月を経て、肺がんや中皮腫などの深刻な健康問題を引き起こすことがわかっています。
当時はアスベストの危険性が認識されておらず、作業員にアスベストの危険性を理解させるような教育が行われていませんでした。また、アスベストの取り扱いや使用に関する適切な安全規制も定められていませんでした。最高裁にて、国と企業に対して作業員の健康被害についての責任を認め、原告側の主張を支持する判決を下し、この判決が法改正や安全規則の強化につながりました。

【労働安全衛生規則】2025年4月改正の主な内容

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保護対象範囲の拡大

これまで危険箇所での安全措置は自社の労働者のみを対象としていましたが、改正後は以下の人々も保護の対象となります。

  • ・他社の労働者
  • ・一人親方(個人事業主)
  • ・資材搬入業者
  • ・警備員
  • ・家族従業者

これらの者が作業場で作業を行う場合、契約関係の有無にかかわらず、安全措置の対象となります。対象となる安全措置は以下のものです。

【対象となる主な安全措置】

  • ・危険箇所への立入禁止
  • ・特定の場所での喫煙・火気使用禁止
  • ・事故発生時の作業場所からの退避
  • ・悪天候時の作業禁止

一人親方などに対する周知の義務化

事業者が一人親方や下請け業者に作業を請け負わせる場合、とくに危険な箇所で例外的に作業を行う際の保護具の必要性について周知徹底する義務があります。

例えば、有害なダイオキシン類が発生しうる焼却施設などでの作業を一人親方や下請業者に一部依頼する場合には、作業方法を事前に周知させ、請負人に対しても保護具などを使用するよう徹底しなければなりません。また請負人だけで作業する場合でも事業者が設置した局所廃棄装置等の設備を稼働させる必要があります。

周知の方法としては、作業場への掲示、書面の交付、電子媒体での記録、口頭での伝達が認められています。複雑な作業を含む場合には、周知の方法も複数実施しましょう。

参考:厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、以下の1、2を対象とする保護措置が義務付けられます」

【労働安全衛生規則】2025年4月改正の主な内容

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2025年4月1日の労働安全衛生規則の改正を踏まえ、企業は以下の点について対応が求められます。

安全管理体制の見直し

労働安全規則の改正後は企業内で働く従業員だけでなく、請負業者、外部業者、さらには一人親方など、すべての作業者に対する安全管理が必要になります。そのため、企業はすべての作業員が安全に作業できるように従来の安全管理体制を見直し、範囲を広げた管理体制を構築することが重要です。

作業現場ごとにリスクを評価し、リスクに応じた対策を講じるために、リスクアセスメント(危険性評価)をより厳格に実施する必要があります。また、リスクアセスメントの結果に応じて具体的な安全措置を計画し、それを実行する体制が求められます。業務の内容に応じて必要な安全措置(例えば防護具の使用や作業環境の整備)を明確にし、新たな安全管理体制を構築しましょう。

安全措置に対する周知の方法の確立

作業場での安全措置について、全関係者に正確に伝わるよう、事前に周知の方法を確立しておきましょう。

・書面の交付や掲示、口頭による説明など多様な手段を活用

安全措置については、書面の交付、掲示板等での連絡、口頭での説明など、さまざまな方法で周知させる必要があります。とくに国籍の異なる外国人労働者がいる場合などには、それぞれの母国語での情報提供が求められることもあります。

・従業員全員と下請け業者への一貫した伝達

自社従業員だけでなく外部業者や一人親方、下請け業者に対しても同様に安全措置を周知させ、共有する必要があります。一部の従業員のみが知っているといった情報格差が生じることで労働災害の発生リスクが高まります。確実に情報が伝わる方法を選択しましょう。

・定期的な確認とフォローアップ

安全措置が現場で実行されているかどうかを定期的に確認し、従業員へのフィードバックを行います。状況に応じて、周知の方法を再確認し改善していくことが求められます。

重層請負構造に対する対応

重層請負構造の中で、各請負者の責任範囲を明確にしましょう。
一次下請は二次下請、一人親方への周知義務があり、二次請負は三次請負と一人親方への周知義務が発生します(図)。

重層請負構造に対する構造.jpg

参考:厚生労働省「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、以下の1、2を対象とする保護措置が義務付けられます」

安全教育や訓練の実施

企業は、新たに危険作業に従事するすべての従業員に対して、基礎的な安全教育を提供するとともに、定期的に安全訓練を実施する必要があります。作業現場ごとに特有の危険要因があるため、それに応じた知識と危険回避の方法などについて説明し、訓練を実施しましょう。また、作業現場で発生した事故やヒヤリハット事例を元に、教育内容を更新し、より現実的な訓練を行いましょう。

まとめ:産業医とともに、安全で生産性の高い職場づくりを

2025年4月1日の労働安全衛生規則改正では、安全管理の強化のためにより健康的で生産性の高い職場づくりを進めることが求められます。産業医は、労働者の健康管理や作業環境の改善を担当し、リスクアセスメントや健康診断を通じて、潜在的な危険を早期に発見する役割を担います。企業は産業医とともに、作業場でのリスク管理を徹底し、従業員への教育や安全措置の強化に努めましょう。

公開日: 2025.05.29
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