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産業医面談による休職命令について判例とともに解説

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更新日: 2024.04.10
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この記事を書いた人:ワーカーズドクターズ編集部

産業保健に関する情報を幅広く発信。産業医業界で10年以上、約1,250ヶ所の事業場の産業保健業務サポートをしているワーカーズドクターズだからこその基礎知識や最新の業界動向など、企業様の産業保健活動に役立つ情報をお届けします。

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企業は従業員を雇う以上、一人ひとりの安全と健康に配慮する義務があります。

仮に従業員が私生活で病気やケガを患ったとしても、企業の安全配慮義務は果たされなければなりません。

これに関連して、多くの企業には「休職制度」が存在し、企業は必要に応じて従業員へ休職命令を出すことができます。

当記事では、休職命令の基礎知識や、トラブルの多いメンタルヘルス不調関連の休職命令、産業医面談による「勧告」と休職命令の関係について解説します。

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休職命令とは?従業員が働けなくなるケースについて

休職命令とは、従業員が何らかの理由で長期間就業ができない場合、企業が一定期間の休職を命じることです。

休職については法律で取り決めがあるわけではなく、各社が就業規則であらかじめ規定する必要があります。

従業員を休職させるべきか判断が必要になるケースはさまざまで、以下のような事例が考えられます。

  • ・私的な病気や怪我によって業務ができなくなった場合
  • ・私生活上に事故に遭ってしまった場合
  • ・刑事事件で起訴されてしまった場合
  • ・留学や公職就任などで一時的に業務ができなくなった場合
  • ・関連企業やグループ企業に一時的に出向した場合

こうしたシチュエーションの中で、企業側が就業規則にしたがって休職の是非や期間を決定するのが通例です。

休職命令で多いケースは私傷病やメンタルヘルス不調

休職が必要となり得るケースのうち、大半は私的な病気やケガによる「私傷病」です。

また、近年重要視されるようになったメンタルヘルス不調による休職も増加しています。

つまり、従業員の心身の健康に配慮するための休職命令が多くを占めています。

「治療に専念し、回復したら仕事に復帰したい」と考える従業員にとっては、ただちに解雇されずに十分な休養期間を与えられるため、休職は安心できる緩衝材としての役割があるのです。

従業員の安心や健康、雇用を守れば、企業は安全配慮義務を遵守でき、貴重な人材の流出も防止しやすくなるでしょう。

このように休職制度は労使双方にメリットがあり、労務管理の一環として多くの企業が採用しています。

メンタルヘルス不調による休職命令はトラブルに注意

メンタルヘルス不調の従業員に休職命令を出す場合、命令を下すかどうかの判断や休職期間の設定、復帰の判断などが一般的に難しいと言われています。

なぜなら、メンタルヘルスの不調は周囲からは気づかれにくく、不調の尺度も簡単には測れないためです。

また、私生活による不調なのか、業務による不調なのかを切り分ける必要もあります。

業務が原因となる場合、療養のために休業する期間やその後30日間の解雇が制限されるなど(労働基準法19条1項)、私傷病の場合とは異なる規制があるためです。

判断が難しいとは言え、誤った、もしくは精度に欠ける対応をしてしまうと、次のようなトラブルに発展する可能性があります。

休職の判断が遅れて被害が甚大に

休職命令を出す以前に、従業員の不調に気づくのが遅くなればなるほど、本人の問題が悪化したり、それが業務や周囲の人間に影響を与えたりする可能性が高くなります。

欠勤や遅刻が目立ったり、普段はないようなミスが増えたりなど、現場の同僚や上司しか気づけない異変の察知が重要です。

こうした気づきをきっかけに、産業医や専門医との相談を経て本人への受診勧告を検討するなどの実務へつながっていきます。

職場全体で協力して早期発見を心がけると良いでしょう。

本人に自覚がなく休職をめぐるトラブルに

メンタルヘルス不調は、周囲の目線では異変を検知している一方、本人に病識がないケースも存在します。

「本人は問題なく働けると考えているのに、会社からは休職を命じられる」ケースでは、従業員が休職命令に応じなかったり、不当な命令だと裁判を起こしたりする可能性があります。

最悪の場合、命令違反を理由に相手を解雇せざるを得なくなるか、実際に命令に正当性がないと認められれば、休職中に発生しなかった賃金を補償しなければなりません。

こうしたトラブルを防ぐためには、休職させる基準を明確にして、本人が納得するように休職が必要である主張を十分に伝えると効果的です。

休職中でも労働者の立場は失われない点や、デリケートな問題のためプライバシーの配慮を徹底する点、自身や職場のためにも治療に専念して欲しい点などをしっかりと伝え、まずは医師の診断を受けてもらうように相談しましょう。

復職の判断を急いで病状が悪化

休職期間をしばらく経たとしても、復職の判断は企業として慎重に行わなければなりません。

ある企業では、過重労働によるメンタル疾患で休職していた従業員を本人の強い意向だけで復職させました。

しかし復職後、持病の悪化により本人の死亡につながったとして、遺族から約3,000万円の損害賠償請求を受け、実際に賠償を命じられた判例(※)があります。

※福岡地裁平成24年10月11日判決

復職を判断するためには従業員自身の意欲は材料のひとつでしかなく、生活リズムが整っているかどうか、1日の業務に耐えうる体力の有無、職場の復職受け入れ体制が万全であるなど、さまざまな条件について考えなければなりません。

さらにこれに加え、主治医や産業医の意見を踏まえ、企業は最終的に復職可能かどうかの判断をするのです。

▼参考資料はコチラ
裁判例結果詳細(福岡地裁平成24年10月11日判決)

産業医面談による「勧告」は休職命令にとって強力な根拠に

従業員への休職命令は、本人の自己申告や周囲による検知をきっかけに、産業医の医学的判断などを経て、最終的に会社が判断します。

こうした流れの中で、正確な判断を下すため、あるいは命令に正当な根拠を持たせるために重要なのが産業医による面談です。

この点については、労働安全衛生法13条5項に以下の通り規定がされています。

"産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。この場合において、事業者は、当該勧告を尊重しなければならない。"

このように産業医には「勧告権」があり、勧告を受けた会社はその内容を安全衛生委員会(衛生委員会)に報告し、実際の措置とあわせて記録・保存(3年間)する義務があります。

最終的な判断は企業が下しますが、産業医からの勧告が出た時点で、これを無視して事故が起きた場合は莫大な損害請求を被る可能性があるでしょう。

したがって、産業医が「従業員の健康管理のために休職させるべき」と勧告すれば、仮に主治医の診断がない場合や、従業員本人が休職を希望しない場合においても、会社は休職命令を出せるのです。

続いて、実際に産業医面談が休職命令に直結した判例をご紹介します。

大阪地裁平成30年3月28日判決

この事案の中では、メンタルヘルス不調の疑いがある従業員が産業医と面談した結果、産業医が提出した意見書にしたがって企業が休業を命じた場面が出てきます。

対象の従業員は、元々こなせていた仕事ができなくなったり、被害妄想や幻聴の疑いがある発言が増えたりするなど、周囲が気づくほどの異変が見られていました。

企業側は従業員に休職を命じましたが、本人は「自分に精神疾患はなく就労可能である」と主張し、その旨が記載された主治医の診断書も提出されました。

状況を見かねた企業が産業医との面談を従業員に命じ、結果として産業医が「約半年間は就労不可」とする意見書を提出したため、これを勧告と受け止め休職命令が出されたのです。

裁判所は、休業命令は産業医の意見を踏まえて行われたものであり、本人の当時の言動を踏まえれば、主治医が精神疾患とは認めていなくても、休業命令は有効であると判断しています。

▼参考資料はコチラ
休職命令とは?出し方と注意点をわかりやすく解説|咲くやこの花法律事務所

まとめ

休職命令は、主に私的な体調不良やメンタルヘルス不調を抱える従業員について、雇用と健康安全を守るために設けられた制度です。

産業医はその過程で面談結果から意見書を出し、会社はそれを判断材料にして命令を下します。

産業医が休職について「勧告」を出せば、面談結果が休職命令に直結するケースもあるでしょう。

休職あるいは復職させる際の基準や、休職から復職までに必要な手続きなど、あらかじめ就業規則に盛り込んでおけば、従業員とのトラブルも減らせます。

ただし注意しておきたいのが、「休職命令は後手の対策である」点です。

特にメンタルヘルスに関しては、企業がストレスチェック等で従業員の状況を確認し、問題が起きる前に面接指導を実施するなど、先手の対策を充実させるのが本来あるべき姿です。

有事の際の休職制度だけでなく、有事を防止するための健康経営もしっかり行いましょう。

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公開日: 2022.05.31
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