認知症とは

2021年11月02日【監修】ワーカーズドクターズ産業医 精神保健指定医 日本精神神経学会専門医 清水杏里先生

我が国では高齢化の進展とともに、認知症の人数も増加しています。認知症高齢者の数は2012年で 462 万人と推計されており、2025年には約 700 万人、65 歳以上の高齢者の約5人に1人に達することが見込まれています。今や認知症は誰もが関わる可能性のある身近な病気になっています。

認知症の種類

「認知症」とは加齢にともなう病気の一つです。さまざまな原因で脳細胞の働きが悪くなることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、社会生活や対人関係に支障が出ている状態が6か月以上継続するものをいいます。認知症にはいくつかの種類があります。

 

【アルツハイマー型認知症】
認知症の中で最も多く、脳の一部が萎縮していきま 
す。もの忘れで発症することが多く、ゆっくりと進 
行します。

【血管性認知症】
脳梗塞や脳出血などの脳血管障害により発症します。
一部の認知機能は保たれている「まだら認知症」が 
特徴です。症状はゆっくり進行することもあれば、 
階段状に急速に進む場合もあります。

【レビー小体型認知症】
幻視や、手足が震えたり歩幅が小刻みになって転び  
やすくなる症状(パーキンソン症状)が特徴的です。

【前頭側頭型認知症】スムーズに言葉が出てこない 
・言い間違いが多い、感情の抑制がきかない、社会 
のルールを守れなくなるといった症状が現れます。 

道に迷う老女

認知症と加齢による物忘れの違い

もの忘れには、正常なものと認知症を疑うものがあります。以下のような違いが特徴的です。

 

加齢によるもの忘れ

認知症によるもの忘れ

体験したこと

一部を忘れる

例)朝ごはんのメニュー

すべてを忘れている

例)朝ごはんを食べたこと自体

もの忘れの自覚

ある

ない

探し物に対して

(自分で)努力して見つけようとする

誰かが盗ったなどと、他人のせいにすることがある

日常生活への支障

ない

ある

症状の進行

極めて徐々にしか進行しない

進行する

 

認知症の症状

認知症の症状には、「中核症状」「行動・心理症状」があります。
「中核症状」とは、脳の神経細胞が死んでいくことによって直接発生する症状で、周囲で起こっていることを正しく認識できなくなります。新しいことを覚えられなくなる記憶障害、日時や場所の感覚が薄れる見当識(けんとうしき)障害理解・判断力の低下、自分で計画を立てて実行することが難しくなる実行機能障害感情表現の変化があげられます。 「行動・心理症状」は本人がもともと持っている性格や環境、人間関係など様々な要因がからみ合って起こる、うつ状態や妄想といった心理面・行動面の症状です。

 治療法について

アルツハイマー型認知症を完全に治す治療法はまだありません。できるだけ症状を軽くして、進行の速度を遅らせることが目標となります。コリンエステラーゼ阻害薬(塩酸ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)とNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)に改善効果があることが認められています。レビー小体型認知症では、塩酸ドネペジルのみ保険適応が認められています。しかし、これらの薬剤の効果は一時的で、認知症の進行を完全に抑えるものではありません。血管性認知症に効果がある薬剤は今のところ存在しませんが、脳卒中の再発予防のために高血圧などの生活習慣病の治療が不可欠です。また、うつ状態や妄想といった心理面・行動面の症状に対しては、環境調整、リハビリテーション等の非薬物療法が優先されます。コントロールが難しい場合は、抗精神病薬、抗うつ薬、漢方薬などを使用することがあります。
アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの認知症の多くは根本的な治療が困難ですが、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など、治療により認知機能が回復するものもあります。認知症かもしれないと思ったら、まずはかかりつけ医に相談し、専門医療機関を受診しましょう。

認知症の予防

中年期・老年期の運動習慣や定期的な身体活動が、アルツハ 
イマー型認知症を含む認知症の発症率を低下させることが報 
告されています。適度な運動、バランスの良い食事、夜間の 
良好な睡眠、余暇活動を楽しむことを生活習慣にとりいれ、 
高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を治療 
することが重要です。

認知症女性

 MCI(軽度認知障害)とは

日常生活に支障をきたすほどではないものの、記憶力が低下し、正常とも認知症ともいえない状態のことを「軽度認知障害(MCI: Mild Cognitive Impairment)」と言います。MCIの方の約半数は5年以内に認知症に移行するといわれています。この段階から運動などの予防的活動を開始することで、認知症の進行を遅らせることが期待されています。以前よりもの忘れが増えている、もの忘れの程度が同年齢の人に比べて強いと感じたら、念のために専門医を受診することが早期発見・早期対応につながります。

<コラム インフルエンザワクチンについて> 日本感染症学会は2021年度のインフルエンザワクチンの接種を推奨しています。昨年度は手指衛生やマスク着用が習慣化されておりインフルエンザの流行が抑えられていました。そのため今年度は集団免疫が獲得されておらず、大流行が懸念されています。冬季のコロナウイルス感染症の再流行時に医療現場の負担を軽減するためにも、インフルエンザワクチンの接種が望ましいと考えられています。なお、新型コロナワクチンとインフルエンザワクチンは、2週間以上間隔をあけて接種する必要があります。

<参考文献>

認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(概要)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf(厚生労働省)

知ることからはじめようみんなのメンタルヘルス 認知症
 https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/disease_recog.html(厚生労働省)

もし、家族や自分が認知症になったら 知っておきたい認知症のキホン
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201308/1.html(政府広報オンライン)

新型コロナワクチンQ&A
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/0037.html(厚生労働省)

インフルエンザ委員会「2021-2022年シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種に関する考え方」
https://www.kansensho.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=44 (日本感染症学会)

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